Just blogged

元SIerの今はWebビジネス中心なヒトが日々のトピックを綴ります。

Softbankの成功事例は、マーケティングの格好の事例


Softbankについては、また改めて詳細を記載したいとは思いますが、
新興ブランドであるSoftbankが純増数14ヵ月首位という圧倒的なリードを
生みつつあるので、ここで一度まとめます。


なぜ、「安い」というブランドイメージしかなかったボーダフォンを引きついだ
これまた安いADSLの会社というブランドイメージを持っていたソフトバンクが
巻き返せたのか?


そこには深い経営戦略、マーケティング戦略がありました。


確かに白戸家のCMは非常に面白い。
しかし、CMの差だけじゃありません。
もっと上位のレイヤーであるマーケティング戦略の差です。
ひいては更に上位の経営戦略の差が各キャリアの伸びの差とも言えます。


経営戦略としてのLBO(ファイナンス)、プロダクト戦略、プラン戦略。
マーケティング戦略はそれぞれ経営戦略に基づき、
広告、販売促進、PRを消費者の意識に深く入り込む施策で
実施していきました


マ−ケティングの4Pとされる

  • Product
  • Place
  • Price
  • Promotion

を地でいったなあと改めて思います。


今回はファイナンスの側面が強いLBOには触れずに、
他の側面を中心に下記に具体例を示していきたいと思います。

経営戦略的な2つの側面

  • プロダクト戦略
  • プラン戦略

プロダクト戦略(Product)


4PにおけるProductの部分です。

 シャープの液晶ブランドであるAquosを全面に押し出し、シャープの
 技術の粋を集めたであろう携帯電話です。
 Docomoがプライドを曲げてまで、しぶしぶSoftbankの後発で
 導入せざるを得なかった端末です。

  • PANTONE

 これも、ソフトバンクのスタイリッシュさを表すブランドイメージに
 大きく貢献しました。
 だからこそ、キャメロン・ディアスを広告塔として採用したわけです。
 こちらもシャープの端末。




Softbankの戦略上、シャープは欠かさざるべきパートナーであり、
通常のキャリアとメーカーの関係以上に深い関係を築いているように
思えます。



現在もシャープの最新機種はSoftbankに真っ先に投入されているため、
Softbankからシャープへ何らかのインセンティブが払われている可能性が高い。
そこは、Docomo→メーカーのような主従関係ではないのでしょう。

プラン戦略(Price)


4PにおけるPriceの部分です。
携帯電話ではプラン戦略になりますが、マーケティング的に言うと
プライシング戦略になります。
価格をどう設定するか、どう見せるかというところの戦略です。


ここでは大きく分けて、3つの戦略がありました。

  • 最安値のコミット

「ドコモ、auがうちより安いプランを提示したら24時間以内にそれ以下の価格を提供する事を約束する」と孫社長がコミットしました。

  • 最新でも端末代0円の導入

2年契約で24分割した端末代を月々支払うという割賦割引を条件として、
最新の端末であっても、0円で買えるようにしました。


それだけではなく、月々ある程度使用すれば端末代は割り引く
という新しい形の契約形態を打ちだしました。
ついには、Docomo・auも追随せざるを得ない状況まで追い込み、
現在は3社ともこのプランを適用できる状態にあります。

「1時〜21時はホワイトプラン同士ならタダ」というキャリアにとっては、
ある意味致命的とも言えるプランをSoftbankは打ち出しました。


これはPHS会社のウィルコムが提示していた「ウィルコム同士は常にタダ」
というプランに制限をつけたものですが、基地局などのコストの違いに
より、負担が大きいはずの携帯電話会社であるSoftbankがこのようなプランを
適用できた事は非常に驚きでした。


このプランが、Softbankの戦略的な優位性を築いていく事になります。

マーケティング戦略的な3つの側面

  • 広告戦略
  • 販売促進戦略
  • PR戦略

広告戦略の3つの軸


4PにおけるPromotionの部分です。

  • ブランドを伝える

 キャメロン・ディアスブラッド・ピット
 たかが新興企業のソフトバンクがハリウッド俳優を連れてきて、
 CM出演させるだけでも快挙なのに、更に812SH PANTONEのような
 斬新なプロダクトと結びつけました。


softbank-キャメロン・ディアス

  • プランを伝える

 白戸家上戸彩と犬、そして日本語を話すいかつい黒人の兄
 を使ってコミカルに演出しました。
 消費者の間に、大きくクチコミを呼んだものと思われます。


softbank-白戸家シリーズ

  • 携帯電話のよさを伝える

 別枠で、「プロポーズを電話でする編」や「田舎のお父さんに電話する」
 などのあったかいシナリオのCMを打ち、
 ソフトバンクのあったかみのある携帯電話というブランドイメージを
 確立させた。


softbank-プロポーズ




上記に加え、「ホワイトプラン」の加入人数が1,000万人を超え、
ユーザーメリットが大きく出てきたところで、ホワイトプラン
違った軸で「ただとも」というコピーでまたしてもぶちあげています。
http://mb.softbank.jp/mb/welcome/tadatomo/


こちらは現在、ウォッチ中です。

販売促進策


4PにおけるPromotionかつPriceの部分です。

  • 販促ツール

 販売促進策ではホワイト学割のデザインと冊子はもちろん、
 キャメロン・ディアスが表紙の冊子が目立ちました。
 そりゃ手に取りたくなります。
 また、冊子をファミリーマートに配置するなど余念がありません。


 ホワイト学割のデザインのスタイリッシュさは学生ターゲットの
 デザインとしては、珍しいものです。
 http://mb.softbank.jp/mb/special/students/


 大体が、「簡単に」とかベタに「カッコよく」みたいなイメージで
 攻めるのが通例でしょう。
 学生には、ホワイト学割のイメージが斬新に見えたのではないでしょうか。

  • 販売店の競合コストの削減

 Softbankの端末には、Docomoやauのように販売店による価格差が
 ありません。


 Docomoやauの場合は、キャリアから支払われる「販売奨励金」の
 範囲で、端末代を競合販売店より割り引いて販売し、利益を圧迫し、
 競合の価格をチェックする事のコストがかかったりしていました。


 しかし、Softbank端末の場合、販売店はそこにコストをかける事なく、
 販売に専念する事ができます。

PR


4PにおけるPromotionの部分です。


PRでは、上記に挙げた広告のユニークさを始め

  • 「ドコモ、auがうちより安いプランを提示したら24時間以内にそれ以下の価格を提供する事を約束する」と孫社長がコミットした事。
  • iPhoneの初キャリアとして獲得した事。
  • Aquosケータイを初キャリアとして獲得した事。


などをこぞってマスコミが取り上げました。
この点には、「何がメディアの琴線に触れるか?」を深く理解している
孫社長の経験知も大きく反映されているかと思います。

広告代理店


やや別枠の話になりますが、広告代理店について記載したいと思います。


広告・販促・PRを請け負ったであろう広告代理店はDocomoと同じ電通です
では、なぜ、Docomoは「docomo2.0」で大コケして、
Softbankは大成功できたのか?


担当する電通のディレクターの力の差もあるかもしれませんが、
電通にとってはDocomoの方が過去の取引も含め、上客でしょうし、
むしろDocomoを担当するディレクターの力や実績が上回っている
と考えるのが自然です。


では、違いは何か?


上記にも挙げたように、大きくはクライアントであるSoftbankとDocomo
の経営戦略の差、そしてそこから派生したマーケティングにかける
経営陣の意気込みの差でしょう。


それに示す1つの証拠として、Softbankの広告戦略に責任を
負っている方は元電通マンであり、
電通時代にSoftbank担当として、キャメロン・ディアス
ブラッド・ピットと契約を結んだ方です。
(現地交渉→契約→TV CMまで3日程度で完了させた、とだいぶ前のプレジデントの記事に書いてありました)


その契約終了後、孫社長の強い要請により、Softbankに参画する事になります。


これにより、Softbank社内の人間が、電通という組織に深い意味で
顔が効いているという状況が出来上がりました。
これも、SoftbankとDocomoの差になります。

まとめ


上記のように、マーケティングは携帯電話の本体であるプロダクト戦略、
から価格をどう設定するかというプラン戦略、広告戦略、販売促進戦略、
PR戦略、そして予算など、複雑なものが絡んでいました。


個人的には、ソフトバンクの新規契約数がここまで伸びてきた
キーとしては、1台目の携帯電話を切り替えさせるのではなく、開き直って
「サブケータイとしてのSoftbank携帯」というポジション
ホワイトプランにより実現した事を挙げます。
ここはまさにPHS会社であるウィルコムが狙っていたポジションでしたが、
Softbankはまんまとそのポジションを奪ってしまいました。
このポジション獲得が経営戦略上の転換点であり、その先を見据え、マーケティングを
実施していった事で、Softbankという花がまさに花開いたわけです。


経営にとって、いかにマーケティングが有効かという事を
Softbankは数字と実績で示しました。
同じようなビジネスモデルであっても、見せ方1つでユーザーの
反応がこうも変わるという事。
また、反面教師として、docomo2.0の失敗により、
派手にやれば巻き返せるわけではない事も証明されました。


あくまで、マーケティング戦略が広告戦略の上にあり、
更にその上に経営戦略があります。

  • 安いイメージが付きまとった企業が「スタイリッシュなイメージ」を

たった数年で身につける事ができた事。

  • マーケティング戦略が、いかに経営戦略に依存するかを示した事。
  • ファイナンス的には国内有数の大型LBOの事例を成功に導きつつあるという事。


この3点を示しただけでも、。非常に素晴らしい事例だと思います。
このSoftbankの事例は、ビジネススクールにおけるマーケティングの
ケーススタディでも扱われるようになるのではないでしょうか。

余談


こうやってビジネスはいろいろ動いています。
LBOした頃は「おいおい、Softbank大丈夫か?」なんて
思っていましたし、各メディアの反応も同様でした。


実際、どうなったか?を今になって改めて考えてみると、
このような結果を生んでいるわけです。


メディアの反応というものは、ほとんどがその一時を切り取ったものでしか
ありません。
その時は、確かにもっともらしく聞こえるでしょう。


しかし、経営とは少なくとも中期的(3年程度)な視野を持って実行されます。


トヨタのLEXUSブランドの日本市場投入は、鋼材価格が高騰しつつある今、
仕掛ける事は出来なかったでしょう。
機会を逸したホンダのAcuraと日産のInfinity(トヨタのLEXUSと同様、
海外の高級ブランド)はしばらく日本市場に投入する事はないでしょう。


マクドナルドの100円マック戦略も導入当初は客単価が落ち、
各メディアに批判されました。
しかし、今は100円マックにより得た新規顧客層の
客単価は上がりつつあります。


上記の例のように、メディアの話をうのみにするのではなく、
その解釈を覚えておき、時間が経った後に自ら再判断する事で、
自分の中に事例は蓄積されていくものだと思います。


私自信、このSoftbankの事例をリアルタイムで体感できた事は、
非常に喜ばしいと思いますし、体感できたのも
経営という視点から「なぜSoftbankがこういう動きをしているのか?」
という事を常にウォッチしてきたからだと言えます。


雑誌や書籍にて提示されたロジックを見て、「あー、そうだね」
と感心するだけじゃなく、自らの消費者としての意識が
どう変遷していったのかを考えつつ、今まさに起きている事例を
深く考察すると、本当にビジネスってすごく面白いなーと思います。